天使の畏れ

「どうして世界は、こんなにも哀しくて、美しく視えるのだろうね?」
「それは君、そう見える、そう見ようとする意思があるからだよ」
凛とする涙。水銀の倒錯。
「煙突から昇る煙、車から排出される気体が、気高い意味を持った時代もあっただろうに」
陶酔。することが目的であって、それから覚醒することが何よりも辛く、いとわしく感じるのが陶酔の常である。ボク達の世代の世界理解は、それは結局のところ永遠に醒めぬ陶酔に過ぎない。ああ。愛?死?これが世界?一つ足りないだろう。肉体が。何故なら、肉体は病気と快楽であって、肉体が死を内包せしものだから。そうだ、実は愛と死は、この二つはどちらも肉体的であって、そこにこの二つの畏怖と偉大な魔術とがあるのだ。そう。世界は肉体的に輪廻する。それはつまり、人類存在を根本からアウフヘイベンするには、枷がありすぎるということを意味している。ほら、あなた達にも見えているだろう。未来永劫、この輪廻を断ち切ることなど、出来ないことを。

……ああ、斑鳩が行く。
望まれることなく浮き世から捨てられし彼らを動かすもの
それは生きる意思を持つ者の意地に他ならない。

―灰に塗れた蒼穹のキャンヴァスに、一条の雲が螺旋状の軌跡を描いていく。力の解放。爆音。属性の反転。本来同居し得ぬアニマとアニムスが、いかにもわかり易く彩られ、気泡のシェイドと化していく。死の序列を突き進む様は、迷路の内を進むマゥスにも似て―

「わかっていたはずだった…私達は、自由を見られるかしら?」

〜「斑鳩」より全て引用〜


 この世の果てを視るように、心の闇にすみれを咲かせよ。とはよく言ったもので、僕はこれと同じやり方で世界を愛しているわけですけど、まったく誤算だったのは愛がどこからだって芽生えるということでした。愛は何かが擦れた時に発生する摩擦熱のようなものです!!あ、いや、それは、そんな、違います!!男根みたいな、そういった摩擦!!じじじじじじじじじじじじ自慰行為ですって!!??そんな恥知らずな勘繰りは止してくださいよね。ボクはまったく抽象的な話をしているんです!!!世界とか!そんな肉体なんていう言葉の持つ性的な意味なんて…第一不潔ですよ。ボクは自身の肉体の何処を憎むかと問われれば、真っ先に男根を指し示すのであって、これこそが世界の心理なのです!性器こそが、人間を内なる老賢者に追従させ、アニマとかアニムスによるコンプレックスを産むわけです。俗に言う、ATフィールド。心の壁ですね。普遍的無意識と、意識を隔てる…壁。肉体の所業が世界との摩擦を生むわけであり、よく言われるように、世界が自意識の広がりであるのならばどれだけ良かったか。世界が優しさが全てに優先する動機であることを許さなくなってから随分経った。
 ボクは今日、ユングを読んだよ。3冊ほど読んだあたりで、自分の夢分析をしてみると大変なことに、自分は気違いらしいということがわかった。ボクの夢はいつも映画を見るような形で進行するけど、それが不味いらしい。観客席があることがだ。こういったように、自身がまったくおらぬ状態で進行する夢は、本人の自我が意識したくない事実を無意識の自己が突きつけている意味を持っているらしい。馬鹿らしい。しかも、強烈なカインコンプレックスが形成されていて、分裂症気味だと。ヒドイ。ひどい話ですよね。ああ、世界は悲しみに満ち満ちている…